ブルゴーニュだけじゃない?いま、ドイツワインを知っておきたい理由
「これ、もしマスター・オブ・ワインの試験に出てきたら、間違いなくグラン・クリュです」
そんな言葉が出てくるところから、今回の勉強会は始まりました。

マスター・オブ・ワインを講師に迎えたワインセミナー
先日、ハウディのスタッフがドイツ・フランケン地方のワインセミナーに参加してきました。
場所は、名古屋市内に最近できた話題のホテル「TIAD」です。なんと講師は、マスター・オブ・ワイン(MW)の大橋健一氏。
それだけでも期待大のところ、やはり期待を裏切らない内容でした。それもそのはず。ワイン業界関係者を対象にしたセミナーということもあり、単に「このワインはおいしい」という話ではありません。
土壌、気候、品種、醸造、熟成、料理との相性。そして、なぜ今この産地が世界のワイン関係者から注目されているのか。グラスの中のワインから、ヨーロッパのワイン市場の現在地まで話が広がっていきます。
その中で、何度も頭に浮かんだのが、「あれ? ドイツワインって、こんなところまで来ているんだ」ということでした。

「ドイツワイン」と聞いて、何を思い浮かべますか?
甘口のリースリング。モーゼル。ラインガウ。
もしかすると、そんなイメージがまず出てくるかもしれません。もちろん、それもドイツワインです。でも、今回グラスに注がれたワインは、少し様子が違いました。
硬質な酸。伸びる余韻。石を思わせるような質感。そして、果実味を前面に出すというより、線の細さや透明感、テクスチャーで飲ませるワイン。
「これがドイツ?」と少し意外に思う一方で、飲み進めると、なるほどドイツだからこそ生まれる味わいなのかもしれない、とも思えてきます。
その舞台が、フランケンです。
フランケンを知ると、グラスの中が少し見えてくる


ドイツ中央部に位置するフランケン。この地方を知るうえで面白いのが、土壌の多様さです。赤色砂岩、貝殻石灰岩など、場所によって異なる地質が広がっています。
さらに冷涼な気候と昼夜の温度差。こうした条件がブドウに与える影響は大きく、ワインにもはっきりと現れます。
今回、実際にワインを飲みながら説明を聞いていると、「土壌」や「気候」という言葉が、急に教科書の中の話ではなくなりました。
たとえば、口に入れたときのキュッとした酸。果実味が横に広がるというより、スッと線を引くような感覚。飲み込んだあとも残る、細く長い余韻。
先に味を知ってしまうと、今度は「なぜこういう味になるんだろう?」と土地のことが気になってくる。ワインを勉強する面白さは、こういうところにあります。
「シャルドネじゃないから、面白い」


今回、特に面白かったのがピノ・ブランでした。
ワインの世界では、シャルドネやピノ・ノワールなど、いわゆる「高貴品種」と呼ばれるブドウがあります。でも、大橋MWの話を聞いていると、そもそも「高貴品種」という考え方自体を少し疑ってみたくなります。
もし世界中の造り手が、本気でピノ・ブランに取り組んだら?シャルドネとは違う方向で、世界最高峰のピノ・ブランが生まれる産地が出てくるかもしれない。今回飲んだワインは、まさにそんなことを考えさせるものでした。
石灰質土壌を思わせる硬質なテクスチャー。高い酸。そして、非常にタイトな味わい。
「シャルドネの代用品」として飲むのではなく、「ピノ・ブランだから、この味が面白い」と考えてみる。それだけで、ワインの見え方が変わります。
同じ「白」でも、造り手の考え方が見える

さらに面白かったのが、シャルドネとの飲み比べです。同じフランケン、同じアストハイムのワインでも、果実の出方やテクスチャーには違いがあります。
シャルドネの方が、果実味が少し前に出る。一方でピノ・ブランは、より硬質でソリッド。どちらも酸は非常に高いのですが、口の中での広がり方が違います。
こうして飲み比べてみると、「シャルドネらしい」「ピノ・ブランらしい」という品種の違いだけではなく、「この造り手は、品種と土地をどう表現しようとしているのか」というところまで見えてきます。
そして、ここから話は醸造へ。
フルストの白ワインは、かなり還元的なスタイルで造られています。発酵前の果汁も、一般的な白ワインのイメージからするとかなり濁っている。
濁りをできるだけ取り除いてから発酵させるのではなく、あえて多くの成分を残した状態で発酵へ進めることで、酵母などに由来する複雑さや厚みを引き出していく。だからこそ、香りにはパンの生地のようなニュアンスや、硫黄化合物由来の特徴的な香りが現れます。
「きれいな香り」という一言では片付けられない。でも、口にすると酸がピンと伸びていて、余韻は長い。このちょっとした矛盾が、ワインを面白くしています。
いま、ブルゴーニュだけを見ている場合じゃない?
今回のセミナーで、個人的に一番大きかった発見はここかもしれません。ブルゴーニュのワインは、世界中で人気があります。当然、価格も上がっています。
では、ピノ・ノワールやシャルドネを飲みたい人は、これからどうするのか。
そこで世界のワイン関係者が目を向けているのが、ブルゴーニュ以外の産地です。
ドイツも、そのひとつ。
特にフランケンのような産地では、濃さや力強さではなく、酸、透明感、質感、余韻といった部分でワインの品質を表現している。これは、近年のワインの評価軸とも重なります。
「どれだけ濃いか」ではなく、「どれだけ美しく、長く、細かく味わいを残せるか」という方向です。
ブルゴーニュの代わりを探す、というだけではありません。これまであまり知られていなかった産地に、別の価値を見つける。そんな動きが、ヨーロッパのワイン市場で少しずつ大きくなっています。

気候が変われば、ワインの地図も変わる
もうひとつ、避けて通れないのが気候変動です。
ワイン産地にとって、気温が上がることは単純なメリットではありません。ブドウの糖度は上がっても、酸とのバランスはどうなるのか。熟しているように見えて、果実の成熟は十分なのか。水分ストレスはどうか。いつ収穫するのか。
造り手が考えなければならないことは増えています。逆に言えば、これまで「冷涼すぎる」と考えられていた地域に、新しい可能性が生まれることもあります。
ワインの産地図は、昔からずっと同じだったわけではありません。そして、これからも変わっていくのかもしれません。
ワインを知るなら、料理も一緒に
フランケンの話をしていて、やっぱり楽しいのが料理です。
白アスパラガス。川魚。そしてシュニッツェル。
ドイツでは、春になると白アスパラガスが食卓に並びます。シルヴァーナーと合わせるのが有名ですが、ピノ・ブランとの相性もいい。こういう話を聞くと、産地が急に立体的になります。
「このワインは石灰質土壌で……」
と覚えるより、
「この土地で白アスパラガスを食べながら、このワインを飲んできたんだな」
と考えた方が、ずっと記憶に残ります。
ワインは農産物であり、同時に食文化でもある。これはハウディでも、日々お客様とワインを選ぶときに大切にしていることのひとつです。
そして、リースリングはやっぱり面白い

ドイツの話をするなら、リースリングにも触れておきたいところ。
ドイツのリースリング=甘い、というイメージを持っている方には、今回のリースリングはちょっと驚きかもしれません。残糖を極めて少なく抑えた、非常にドライなスタイル。すだちやレモンをキュッと絞ったような魚料理と合わせたくなる、シャープな酸があります。
同じリースリングでも、甘みを残すのか、酸を立たせるのか。土地と造り手によって、これほど表情が変わる。
「知っているつもりだった品種を、もう一度飲み直す」。
それも、こういう勉強会の面白さです。
まだ、ハウディに並ぶかどうかは分かりません。
ここまで書いておいてですが、今回のワインが今後ハウディの店頭に並ぶかどうかは、まだ決まっていません(笑)。

今回の目的は、新しい商品を探しに行くことだけではありません。世界のワインが、いま何を面白いと思っているのか。どんな産地に可能性を感じているのか。造り手は、変わっていく気候や市場とどう向き合っているのか。
そういうことを知ることも、私たち酒屋にとって大切な仕事です。
そして、こうして学んだことが、いつか店頭でお客様から、「ドイツって、甘いワインだけじゃないんですよね?」なんて聞かれたときに、少し面白い話を返せる材料になっていればいいなと思います。
ワインの世界は、知れば知るほど「まだ知らないもの」が出てきます。ブルゴーニュも面白い。でも、その隣にはまだまだ知らない産地がある。
今回のフランケンも、そのひとつでした。
さて、次に面白いワインが見つかるのは、どこでしょう。
ハウディも、引き続き勉強していきます。
















